こんばんは. 今日はプラセボ効果に対する興味深い記事を読んだので,紹介したいと思います.
本記事のタイトルと内容はこの論文から引用しています.
Does the word “placebo” evoke a placebo response?
神経障害性疼痛治療薬の臨床試験ではプラセボ効果が問題になる,という話をよく耳にします.
臨床試験では薬の効果を確かめるために,治療薬が含まれている真の薬剤と,治療効果がない偽の化合物=プラセボを患者さんに投与して,どの程度治療効果があるかを検証します.
痛みの臨床試験では,患者さんが感じている痛みをスコア化して定量化します.
痛みの定量化などについては以下リンクを参考にしてください. https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_hyouka.html
この時に,疼痛治療薬の臨床試験では,プラセボを投与された患者さんは実際に痛みのスコアが大幅に改善してしまい,実薬との有意差が付かないという問題が起きます.
このプラセボ効果は幻想の鎮痛効果と考えられてきましたが,近年のin vivoイメージング研究の結果,本当に痛みの神経を介して鎮痛効果が引き起こされていることがこの記事では紹介されていました.
このプラセボ効果ですが,年々その効果が増大していることが研究から明らかになっています.
少し横道にそれますが,この研究結果について以下のような論文報告があります.
上記事の内容の要点は,以下の通りです.
- 1993年から20013年までの神経障害性疼痛の治療薬の臨床試験の結果を集約した
- プラセボ薬の反応(鎮痛効果)が年々増加している
- 薬剤の鎮痛効果は変化がないことから相対的に治療効果が減少している
- この現象はUSにおいてのみ,生じている(アジアやヨーロッパでは起きていない)
年々プラセボ効果が増大しているというのは非常に興味深い現象であり,製薬会社にとっては慢性疼痛治療薬の開発を困難にさせている要因でもあると思います.
話を戻しますが,この論文で明らかとなった「年々プラセボ効果が増大している」という現象が起きる理由を,「プラセボ」という言葉が一般化されてきたからではないか?という考察をこの記事ではしています.
以下のグラフは,各国で “placebo”という言葉の使われる頻度の推移を示していますが,アメリカ(USA)やイギリス(GB)ではその値は年々増加傾向にあります.
また,様々なジャンルの媒体において“placebo”という言葉がどの程度使用されているかを以下の表では示していますが,Academic Jounal以外にも例えばPopular Magazinesなど一般向けの媒体での使用頻度が高いことに筆者は着目をしています.
論文の筆者は,プラセボ効果を助長するのは「プラセボ」という言葉なので,
“sham medicine” or “sham treatment” could replace “placebo.”
と述べていました.
非常に興味深い考察でしたが,私は日本でもプラセボ効果はかなり浸透しているように感じるので,本当にプラセボ効果はその言葉が一般化されるようになったからなのか??とも感じています.
本当に患者さんにとって効果がある疼痛治療薬を開発するためには,プラセボ効果の克服は重要な課題だと改めて感じた論文でした.
参考文献
Bennett GJ. Does the word “placebo” evoke a placebo response? PAIN 2018;159:1928–31.
Tuttle AH, Tohyama S, Ramsay T, et al. Increasing placebo responses over time in U.S. clinical trials of neuropathic pain. Pain. 2015; 156: 2616–2626.